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直火で美味しく焼き上げる!

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photo by Another Pint Please...

焼く調理のポイントはメラノイジン

焼く調理において、"こんがり"と"黒焦げ"の差はかなり違います。どちらも食材の成分が加熱によって変化した状態であることに変わりありませんが、このときに作り出される物質は全く異なります。


特に、タンパク質を主成分とする魚や肉をこんがりと焼くと、香ばしい匂いが出ることは多くの人が経験しています。


この香りの元は、メラノイジンと呼ばれる物質です。メラノイジンは、タンパク質と糖類が180度程度に加熱されて起こる化学反応によって生成されます。メラノイジンが生成されると、食材の表面はきつね色になり、香ばしい匂いがします。

ところが、メラノイジンは、180度を超える高温で加熱されると炭化して焦げてしまい、タンパク質を高温で焼いたときのような悪臭を発するようになります。これは、ちょうど、毛糸や毛髪を焦がしたときに出る悪臭と同じ匂いです。


焼く調理の場合、食材を焼くときの温度管理の善し悪しが、そのまま料理の善し悪しにつながるので、調理する人は、材料の表面を180度に保つ技術が要求されるのです。

強火の遠火で、備長炭な良い科学的な理由

焼く調理の最大のポイントは、食材の表面を180度に保つことなのですが、これが意外と難しく、調理する人の腕の差がはっきりと出てしまいます。食材の表面温度は、たとえ同じ調理器具を使って焼いても、全く変わってしまうので、焼き上がりに料理人の差が出てしまうのです。


食材の表面温度を180度に保つには、科学的な目が必要とされます。もちろん、長年の経験に基づく、いわゆる"カン"も必要だと言われるかもしれませんが、これも科学的にみて、正しい裏付けを持っています。


焼く調理は直火焼きと間接焼きとに分かれますが、ここではより温度管理の難しい直火焼きに限って焼き方のポイントを考えてみます。


直火の場合、昔から焼き方は『強火の遠火』で、熱源は備長炭が良いとされていますが、実はこれにも科学的な根拠があります。

食材の表面を180度に保つには、その表面周辺の温度も180度付近であることが当然望ましいのです。ここで問題なのは、熱源の部分が180度であるからといって、食材の周辺が180度になると限らないということです。


また、食材の周辺がだいたい180度に保ったとしても、熱源のエネルギーが弱い場合には食材の周り全体を180度に保つことが難しいため、こんがりとは焼き上がりません。食材を美味しく焼こうとする場合には、強力なエネルギーの熱源が必要とされます。


例えば、気温の低い冬であっても、太陽の照っている晴天のときに布団を干すと、布団が暖かく、ふっくらとします。これは、太陽が強力なエネルギーを持っていて、その放射熱のエネルギーかま布団に与えられるからです。


突飛な例のように感じるかもしれませんが、直火焼きの調理も、理屈はこれと同じで、強力なエネルギーを持つ熱源を使い、その放射熱で食材を焼くとこんがりと焼くことができ、美味しく仕上がります。

『強火の遠火』はこの条件を充分にみたいしています。そして、強力なエネルギーを持つ熱源として、備長炭がよく使用されているのです。


よく燃えている備長炭の表面温度を測ってみると、だいたい800度以上にもなっています。そして、その熱源から50センチも離れた場所では、かなり広い範囲に渡って180度を保っています。

焼く調理には煙と炎は禁物

『強火の遠火』には、焼いているときの炎や煙が食材に当たりにくいというメリットもあります。


肉や魚を焼いたときに、炎のようの上に滴り落ちる肉汁は、タンパク質と脂肪を含んでいます。これが高温の直火に落ちると、すぐに燃焼します。熱源のエネルギーが強いほど、急速に燃焼し、含まれている成分の変化も早くなります。タンパク質は、前述の通り変化して不快な臭いを発するし、脂肪も同様に不快な臭いを発し、さらに炎も出ます。

炎は非常に温度が高く、およそ1000度にもなります。もし、近火で焼いたら、食材の表面は180度以上の高温で熱せられることになります。当然、食材中のタンパク質や脂肪をさは高温で変化し、炭化してしまいます。熱源が食材から離れていないと食材はもろに炎の影響を受けて、食材の表面は中まで火が通らないうちに黒焦げになってしまいます。


また、食材が熱源に近いとタンパク質を含む肉汁が熱源の上に滴り落ちて、タンパク質の焦げる不快な臭いが発生したときに、その不快な臭いが食材に吸着するしやすいのです。そして、料理の風味が、著しく低下することになってしまいます。


魚や肉などは、特にこの臭いを吸着しやすいので注意が必要です。これは魚や肉の主成分であるタンパク質には、臭いを吸着する性質があるためです。

例えば、閉め切った部屋で会議するときなど、多くの人がタバコを吸うと、その場にいた人の毛髪にタバコの煙の臭いが付いてなかなかな取れません。これも毛髪の成分がタンパク質で臭いを吸着させやすいからです。

備長炭の特徴と利点

備長炭が熱源として重用される理由は、火力の強さだけではありません。他にもいくつかの利点があります。


第一に、備長炭は炭が燃焼するときに出る灰の量が少ないことがあげられます。これは料理を汚さないことに通じます。もし、灰が多く出る炭だと、たとえ遠火にしてもかなり灰が舞い上がり食材に付着してしまいます。


第二に、備長炭は、灰の成分にカリウムを、多く含み、カルシウムが少ないことが挙げられます。

カルシウムの多い炭を使って、タンパク質を多く含む食材を焼いた場合には、灰の中のカルシウムと、食材のタンパク質とが結合して、口当たりが硬い食感になってしまいます。

これに対して、カリウムは、タンパク質を柔らかくする働きを持ちます。備長炭の灰の成分にカリウムが多いということは、もし灰が食材に付着してしまっても、料理の仕上がソフトになり、口当たりが、良くなるということです。


第三のメリットとしては、備長炭は、燃焼するときにほとんど炎もを出さないので調理している食材に炎が当たる心配はありません。


焼く調理において、食材に炎が当たることが料理に悪影響を及ぼすことについては、前に述べた通りです。




魚と肉を直火で上手に焼くために

魚を焼く場合、火を通す割合を一般に『表6分に裏4分』と言っていますが、表面を始めから6分焼くのではなく、まず5分焼いてから裏返して4分焼き、さらにもう一度裏返して表を少し焼いて仕上げる方が美味しく仕上がります。

また、『魚は大名に焼かせろ』とも言いますが、これは焼いている途中で魚を何度もひっくり返すと美味しく焼けないという意味です。


魚を焼いてると、熱源に当たってない面から水蒸気が立ち上っていきます。だから何度もひっくり返して両面を同じ程度に焼くと、水蒸気が逃げずに生臭みが残ってしまうことになります。


肉の場合は、旨味のある肉汁を逃さない焼き方が大切です。丸ごとのチキンや大きな肉の塊の場合は、ゆっくりと回転させながら焼くと、肉の表面のタンパク質が加熱されて固まり、旨味成分を逃がしません。


ただし、肉全体を強く加熱すると肉が硬くなってしまうので、全体にゆっくりと火が通るように、回しながら焼くと良いでしょう。こうすると、表面がこんがりときつね色になり、美味しく焼き上げることができます。